CROSS TALK:宗達アートクラフト株式会社 上川宗達氏

CROSS TALK銀を使ったモノづくりを行う二人が紡ぐストーリー
~銀の魅力に取りつかれた伝統工芸士~

マイスターズグリットの抗菌事業では、銀の力を利用した抗菌剤を開発しています。銀は昔から多くの人たちに愛されてきたものです。そして、伝統工芸の世界で、銀の魅力に取りつかれ、さまざまな銀製品を生み出す伝統工芸士と知り合いました。弊社代表・笹井克太郎と宗達アートクラフト株式会社・上川宗達氏の対談をお届けします。

マイスターズグリット株式会社
代表取締役 笹井 克太朗

広島県出身。高校卒業後、「ギター修行をする」と宣言し、バイトをしながら音楽活動を行う。さまざまなバイトを行う中で、25歳のときに知り合った会社の社長から引き抜かれ家庭用医療メーカーに就職。営業や総務などの経験を経て、33歳で友人が立ち上げたマイスターズグリット(株)の前身となる会社に転身。5年後にその会社が倒産してしまったが、社員たちの「続けたい」という声に応え、マイスターズグリット(株)を立ち上げた。

宗達アートクラフト株式会社
上川宗達

東京都出身。銀師の家に生まれ、父である2代目上川宗照に師事し、鍛金技法を学ぶ。その後、重要向け文化財保持者(人間国宝)である奥山峰石氏に師事。 2018 年トヨタ自動車日本のものづくりサポート事業「 LEXUS NEW S TAKUMI PROJECT 」で日本代表に選出される。伝統工芸技術を基盤に独自の技術とデザインを探求し、国内外からの注目を集める伝統工芸士。

対談

銀の特性を活かし、
伝統工芸に落とし込む

  • 笹井 (上川氏の作品を見て)輝きがすごいですね!
  • 上川 私の技法は鍛金と呼ばれるもので、1枚の銀の板を叩いて形をつくり上げていきます。実は輝きに影響を与えるのは密度で、磨いても美しい輝きは出ないんです。叩くことで密度が詰まって、銀本来の輝きが生まれます。私の作品づくりの一番の特長は、銀の特長を生かしたモノづくりです。そのために、銀の性質、熱伝導率や光の反射率、電気伝導率など、イチから勉強しました
  • 笹井 このコップもいいですね。
  • 上川 このコップをつくる際、1年くらい考えました。「飲む」って何なんだろう、「おいしい」って何なんだろう、と。その結果、飲む時間を含めて人は「おいしい」と感じるというところに行きつきました。つまり、相手の存在、気分、見た目、匂い、温度、いろいろなものが複合して「おいしい」という感情になるのです。それらすべての要素を銀は満たすことができます。保温効果もあれば、輝きによる雰囲気演出もできる、さらに抗菌作用もあります。「味香り研究所」でプラスチックと銀の器で味覚センサー機で実験したら、銀の器のほうが味がまろやかになるという結果が出ました。銀は味わいにも効果を発揮するんです。
  • 笹井 私たちマイスターズグリットも銀の特性を活かした事業展開をしています。その中で特に着目したのが抗菌作用。銀を微粒化して、シリカと抱き合わせることでAg+を発生させます。安全性を追求して、自然界にあるもので抗菌剤をつくりたいと思ったら銀にたどり着いた感じですね。
    上川さんが銀に興味を持ったきっかけは何でしょう?

それぞれに魅了された
銀の魅力について語る

  • 上川 銀師の家に生まれたこともあり、銀が身近にあったことが第一ですね。銀で器をつくっていると、鉄や銅、スズ、真鍮など、あらゆる金属の色合いに銀が変化していきます。それが銀の魅力です。叩くと強くなるし、磨くとキレイになる、放っておくと黒くもなる。人間と似ている部分があるな、と感じました。
  • 笹井 私たちが扱っているのはサイズをナノレベルにした「見えない銀」です。だからこそ、銀が持つ魅力やストーリーをもっと知りたいと感じました。
  • 上川 銀の抗菌作用も魅力のひとつですよね。ドイツ軍が銀の水筒を使っていたのですが、それは水が長期間腐らないから、という理由だったと聞きました。
  • 笹井 塗装業というのは匂いの面で苦情をもらうことが多かったんです。それでも塗装を続けるためには?と考えたときに、消臭効果や抗菌効果がある銀に行きついたという流れです。弊社の抗菌剤「ナノシルバーシリカネオ」の原理を説明すると、ナノサイズの銀がウィルスの表層面から奥まで入り込みます。そしてAg+を出してウィルスや菌、匂い、カビを除去してくれます。塗装業が持つ塗布技術によって、長期間そこにとどまるようになり、アルコールなどで拭いても銀の成分が残ります。実際、ナノシルバーシリカオを塗布した場所は5か月間、安全値を保っています。
  • 上川 アメリカの論文では、銀には殺菌能力もあるとされています。そういったことが広く知られれば、今以上に銀が身近なものになるかもしれないですね。

伝統工芸と職人の技を
伝えていく

  • 笹井 上川さんは伝統工芸士ということですが?
  • 上川 そうですね。もともと日本では、石見銀山から銀が取れるようになって、江戸で銀が小判として使われるようになった、というのが伝統工芸の始まりとされています。銀を使った工芸品をつくることで、日本の伝統や精神性を受け継いでいくこと。私たちの世界では、そういった伝統を守っていくことが大事とされています。
  • 笹井 私たちは抗菌、上川さんは特質や形状と、性質の違いはありますが、銀を介してこうして出会えたので、モノづくりに対してのこだわりをうかがってもよろしいでしょうか?
  • 上川 モノをつくる上で大切にしているのは、モノよりもコトを表現することです。工房でひとりでつくっても誰にも伝わりません。たとえば「コップをつくっている」ではなく「おいしく飲むための器をつくっている」という考え方ですね。だからこそ、見える化には気を使っています。制作工程をメールやSNSで伝えるようにしていますし、できるだけつくる過程をお客様に知ってもらうよう心がけています。そうすることで待っている時間も楽しくなるのではないか、と。今のところは、一つひとつファンを増やしている段階です。
  • 笹井 私自身、マイスターズグリットという会社の在るべき姿として、製造業ではなく、職人や技術者として生きていきたいと考えていて、そういった環境をつくりたいですね。これまでは大量生産、大量消費で、モノをつくれば売れるという時代でしたが、徐々に変わってきています。モノ消費からコト消費へ変わる中で、ストーリーをいかにつなげるか、ということが非常に重要ですね。
  • 上川 伝統工芸の世界では、70代以上の方が8割を占めています。若い人がこの世界に入ってこないということは、この世界に現状は魅力がないということだと考えています。だからこそ、私自身が銀製品をつくって生活をしていくことで、「こういう人になりたい」と思ってほしい。それが自分の人生を賭ける、唯一のことだと思っています。
  • 笹井 私たちがやっている事業は伝統工芸とは違いますが、職人にしかできない技があって、それを大事にしているということに関しては、共通する部分もありそうです。塗装という技術は、実はないほうが地球の環境にとっては優しいわけです。でも、塗装があるからこそ、見た目がキレイだったり、別の機能性を生むこともあります。環境に迷惑をかけている部分についてしっかりと自覚して対応しながらも、職人の技術というものを追求できる環境を整えていきたい気持ちもあります。それから、今日感じたことですが、やはりモノづくりの魅力は伝えていきたいですね。上川さんと話しただけで、今まで知らなかった銀の魅力が伝わってきたので。
  • 上川 モノづくりは何のため?と聞かれると自分のつくったものの良さを伝えたい、というところに帰結すると思っています。それが伝えることにもつながっていくのではないでしょうか。私たちにとってみれば、銀の魅力も伝 統工芸の魅力も伝えていく必要があります。今までは「銀というステータス」という売り方しかしてきませんでしたから。そういったことも含めて、やらなければいけないことだらけです。
  • 笹井 ほとんど消費者がどういう風につくられているかを知らないわけです。でも、だからこそ知りたいと思っています。
  • 上川 モノをつくることも、それを伝えていくことも大事ですね。
  • 笹井 今日は、銀の魅力を教えていただき、ありがとうございました。お互いのことを伝えられるようにコラボレーションしましょう!
  • 上川 これから進化したものを伝えていく姿勢に共感しましたし、勇気をもらいました。より良い形にできていったら楽しいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。